2019年4月5日
キリマンジャロ登山6日目
風の音で夜22時に一度目が覚めた
ここはBARAFU KAMP(バラフキャンプ)
キリマンジャロ登山において一番高いところにある最後のキャンプ場だ
夕方にここに到着した時から風は強かった
が、今は夕方の比じゃないくらいの風が吹き荒れている
トイレに行く為に外に出てみたがこれは登山どころのさわぎじゃない
日本の山でもこんな風の日に登り始めたらどうなるかわからない
下手したら風に飛ばされて誰か滑落するかもしれない
プチ嵐と言ってもいいレベル
これは今日は登頂アタックは無理だろう
予定の出発時間を遅らせて風が止むのを待つか、最悪1日伸ばすしかない
当然のようにそう思うくらいの風が吹いていた
・・・が、23時前にガイドが僕らを起こしに来た
「まさか・・・ウソだろ」という思いが頭を駆け巡る
「オイ、起きるんだ 行くぞ 準備してくれ」
ガイドが言った
この風の中、予定通り24時までに登頂アタックを決行するという
マジか?この嵐のような風の中キリマンジャロの山頂に向かうなんて自殺行為じゃないのか?
僕らは半信半疑でテントから出た
寒い 風が強過ぎる
よく見ると突風の中に小さく光る物がチラチラが見える
雪か・・・吹雪いてやがる
なんで最後の最後でこんな天候になってしまうんだ
自分たちの運のなさを呪いながら僕たちは身支度を整えた
レンタルでかりておきながら今まで一度も着ることのなかったゴアゴアした分厚い上着に袖を通した
今晩ばかりはこれの力を借りなければ寒さで低体温症になって動けなくなってしまう
ガイドがいようが下にすぐ降りれないこんな高さでそうなったらもう「死」だ
頭からすっぽりかぶるタイプの帽子もここで始めて出して着用した
時刻は夜23時30分
天候は吹雪 風は油断してると大人一人の体が動かされてしまうレベル
僕とKサンとゆーき君の3人とガイドとサブガイドの2人の計5人で円陣を組んだ
ガイドが大きな声で言う
「心配するな!俺たちは出来る キリマンジャロはピースオブケーキだ 行くぞ!!」
皆で大声を出して、僕の心配をよそに山頂への最終アタックが始まってしまった
ガイドが列の順番を決めている間にふと空を見上げてみた
不思議な光景だった
小雪が舞い風がビュービュー吹いてる環境なのに見上げた空には雲がなく星空が広がっていた
こんなアンバランスな夜空は見た事がない 吹雪く嵐に星空
どこか怖くもあり、でも美しい光景
僕らがキリマンジャロ登頂の冒険に向かうにあたって不安とその先にあるはずの喜びを象徴したような空だ
正直この風の中出発する事に乗り気でなかった僕もこの嵐の中の星空を見て吹っ切れた
列の順番は先頭にガイド、その次に僕、僕の後ろにゆーき君、そしてKサン、最後尾はサブガイドのジョセフ
ここにきて始めてメインガイドが先頭に立った
歩き出した僕ら一行が進むのは時に細い坂道、時に大きな平べったい岩の上
いよいよ文字通り道無き道を進み始めた
ガイドに先導されてなかったらホントにここがルートなのか?って思ってしまうようなところを進んで行く
写真が全然ないのはもうこの辺りは体力的にも寒さ的にも写真どころじゃなかったから
酸素が少ないので息苦しさと寒さに耐えながらただただ歩みを進めなければいけない
正直ここではポケットから撮影のためにスマホを取り出すだけでも大変な作業だ
それだけでメチャクチャ疲れる
例えば歩いてる最中に口の中の唾を飲み込むとするじゃないですか
唾を飲み込む一瞬って無意識に呼吸止めますよね
もうその一瞬呼吸が止まるだけでハァハァ息が上がるくらいこの高さで坂道を登るのはキツイ作業なんです
歩きながらスマホ取り出して撮影となると手袋も外さないといけないのでもう手が死にます
なので休憩で止まるまではスマホなんて取り出してる余裕がない
そして歩き出して2時間
最初の休憩を取った 地べたに座るだけの休憩
Kサンが横に座ったけど見る限り結構バテている
バテバテのKサン
Kサンは一眼レフのカメラやら三脚やら持って登ってたので僕らよりだいぶ重い荷物を背負っていた
当然その分疲労も大きいだろう
寒そうだったので出発前に水筒にお湯を入れてもらったのを思い出してKサンにお湯を飲ませてあげた
僕もこのまま当分ここに止まっておきたいくらい疲れてる
とはいえこの暗闇と寒さの中だ 体感マイナス5〜10度くらいだろうか
ガイドに「ここ何度くらいなの?」っと聞くと「今日だとだいたいマイナス15度くらいだね」っと予想を越える返答
長く同じ場所にはいれない 休憩は5〜10分あるかないかの短めのもの
正直この休憩に入る前からお腹がヤバかったのでこの休憩の間に僕だけ少し離れた岩陰に入って野糞
まさか最終アタックの日にまで野糞するハメになるとは思わなかった
真っ暗な夜のキリマンジャロでマイナス15度の吹雪吹き荒れる中、野糞
これどんなにズボンおろすのが怖いかわかります?
下半身をあらわにした途端極度の冷気を股間にも肛門にも受ける訳なので
ハッキリ言ってズボンおろす前にこんなに思い切った勇気が必要になったのは初めてだ
キリマンジャロ最終アタック中に野糞
こんなことした日本人いるのかな? まぁいるんでしょうね(笑)
今までの人生で間違いなく一番寒い野糞が終わり、僕らは再び山頂目指して歩き出す
この最終アタックでは珍しくメインガイドが時間と進むペースを気にしていた
普段は急げとか言わないガイドだったけどこの日のガイドは割と僕らを急かしていた
僕の後ろのゆーき君が遅れ始めた時も「ユーキ!遅れてるぞ! ペースを乱さず付いて来い」と言った
ゆーき君が「これが僕の歩くペースなんだ」とガイドに言うとガイドが「ペースは俺が計算して俺がコントロールするからお前が勝手にペースを作るな」と珍しく厳しい言葉をかけていた
確かにこの高さは普段登山に慣れてない僕らが長くいていい場所ではない
帰りの戻り道の時間も計算に入れてこの高さのゾーンに僕ら3人を滞在させられるのは何時間かガイドはだいたい計算してるのだろう
今の登ってるペースだときっとその計算をオーバーしてしまうんだろうな
とはいえゆーき君のペースが遅くなる事を責められる訳もない
僕らも十分キツくてゆーき君の気持ちもペースもよくわかる
寒過ぎて鼻水が止まらないんだけど正直もう鼻水を毎回拭くのもしんどい
だからもう鼻水も垂らしっぱなしだ そのくらいの息切れと疲労
でもそれでも進まないといけない
ゆーき君の後ろのKサンがどんな状態か気になって後ろを振り返ってみたけど真っ暗闇のキリマンジャロではもうKサンのヘッドライトしか見えない
ヘッドライトの動きを見る限り少し遅れてるがちゃんと付いて来てるみたいだ
気力も擦り切れて太ももはパンパンで体もボロボロだけどあと少しのはずだ
辛いけどみんな頑張ろうな
そして1人も欠けずに3人で登頂をやり遂げよう
キャンプから歩き出して何時間が経っただろうか
僕らは山頂の直前にあるというSTELLA POINT(ステラポイント)という地点にたどり着いた
看板によるとここはもう5756メートルの高さ
ここで2度目の休憩
ガイドが僕らにヘッドライトを消すように伝えた
僕とゆーき君だけライトを消したんだけどKサンがライトを消さないまま突っ立っている
ガイドがもう一度大きな声でKサンにライトを消すように伝えてようやくKサンがライトを消した
明らかに疲労で頭がボーっとして反応が悪くなっている
僕もここまで登って来た事をこの時あまり覚えてなかった
呼吸を大きくしても酸素があまり入って来ず、夜中に起きてこんな寒さの中をこんな高さまで登ってきている
3人とも疲労もピークで体力の限界も近い
ガイドが「あと少しだぞ!」と僕らを鼓舞して短い休憩を終え再び歩き出す
もうあとどれくらい歩かないといけないのかも頭で考えることが出来ない
でも「次の一歩」を踏み出してる限りいつかはこの登山も終わるはずだ
今はただ無心で目の前の一歩を進めるしかない
そう思いただただ歩いた
そして・・・
ついに
遂に終わりが見えた
あれがこの長かったキリマンジャロ登山の終点で頂上だ
ゆーき君もゴールの看板を見て一瞬呆然と立ち尽くした
Kサンは?
すぐに後ろを振り返る
少し遅れてKサンとガイドも上がってきた
これで全員揃ったぞ
ふと、周辺を見回すと氷河が目に入った
あんな氷河があるなんてやっぱりとんでもなく寒い中を登山してたんだ
氷河と雲海 なんて景色なんだ
とんでもないご褒美だよ
そしていつの間にか気がつけば夜が明け始めていて朝日が顔を出してくれた
俺達はやったんだ
ついにアフリカ最高峰キリマンジャロの山頂に到着したんだよな
なんだか信じられないよ
3人で健闘を讃えながら抱き合った
正直この時少しウルっときて泣きそうになってしまった
自分でもこんな気持ちになるなんて思ってなかった
この気持ちがここまでの道のりが楽なものではない事を証明していた
動画では風も強く息切れしてて何喋ってるかわからないけど
「5895メートル・・ついに山頂にたどり着きました 酸素が少なくてもう話すのもしんどいけど目の前には氷河があって向こうには朝日が登ってます」
みたいな事を話してます この時も実はちょっと泣きそうだった
看板に刻まれた5895メートルの文字 よくこんな高さまで登って来れたよなぁ
一人もかける事なく3人揃って山頂に立ったぞ
うん、俺たち頑張った
今日は自分で自分を褒めていいと思う
Kサンとゆーき君も撮影タイム
でももう手が悴んでまともな撮影出来ないんだけどね
とりあえずこの山頂手袋外すと手の痛みがとにかくすごい
ガイドも「山頂に滞在するのは5分だけだ」と言ってる
最低限の写真だけ撮ったら早めに降りないと
長い登山ってここまで登るのに何日もかけるのにその山頂にいれるのはせいぜい10分以内
でも本格的な登山ってそういうもんだ
山頂からの朝日と雲海と氷河を見ながら思った
この世界一周でこの登頂の瞬間よりも感動できる事って残ってるんだろうか
残ってるといいな いや、きっと残ってるはずだ
そう思ってこれからも進もう
とにかく登山素人の僕ら3人によるキリマンジャロ無事登頂成功!!
今日の最高の朝日は一生忘れないよ
コメント
腹痛の中で無事に頂上まで到達されたのは素晴らしいです!
写真では伝えきれない生の感動を体験してみたくなりなした。
じーこ様、コメントありがとうございます!
キリマンジャロは高山病にさえならなければ誰でも登頂可能な山です
アフリカを訪れた際にお時間に余裕があるようでしたら是非トライしてみてください
最高の思い出になると思いますよ