旅行者立ち入り禁止の紛争地帯アグダムへ

2018年10月4日

この日僕と旅仲間のKサンは朝からドライバーを探していた

普通のドライバーではなく、この辺りを熟知していて多少のムチャを聞いてくれる経験豊富なドライバーをだ

なぜなら今日僕たちが目指しているのはアグダムというアゼルバイジャンとナゴルノカラバフが領土争いをしてる最前線の外国人は立ち入り禁止の紛争地域

元々ここナガルノカラバフ自体は法律上アゼルバイジャンの国土なのだが、多くのアルメニア人が住んでいて彼らが1991年に独立宣言してそれをきっかけにアゼルバイジャンとの領土争いの火種になってきた地域だ

そしてナガルノカラバフに多くのアルメニア人が住んでたことからアルメニアがナガルノカラバフの独立を支援してるのでアゼルバイジャンとアルメニアの争いに発展してる

その領土問題で紛争が起きている最前線の町がアグダム

もちろんそんな場所なのでアグダムへの道へは警察の検問がある

アグダムの町の中にも検問がある

普通のボケたタクシードライバーに連れて行ってもらったところで警察の検問に引っかかってしまうのがオチだ

正直僕たちがアグダムへたどり着けるかどうかはドライバー選びで決まると言っても過言ではないだろう

複数人のドライバーと交渉して、強引だけど一番イケイケの年配のドライバーを選ぶことにした

おそらくはこの物怖じしない風格と自信からこの男は元軍人と思われる

元軍人だとしたらおそらくはアグダムの事にも精通しているはず

英語が通じにくいので心配だがこのドライバーにかけてみる事にした

アグダム

ステパナケルトとアグダムとの往復は8000ドラム(約1800円)で決まった

このイケイケのタクシードライバーを雇い観光客は立ち入り禁止の紛争地帯、町ごと廃墟になった町アグダムへ向かう

そして途中ドライバーが人気の無い場所に車を止めた

なんでこんなところで急に止まるんだ?と不安に思っていたらドライバーが外に出てタクシーの天井に付いている行灯(TAXIのマーク)を取り外して普通の乗用車に偽装し始めた

行灯

行灯(あんどん)ってのはこれ このTAXIのマークをドライバー自ら外して普通の車に偽装してくれた

それを見た瞬間「このドライバーは間違いない、今まで数度にわたりアグダムに人を連れて来ている」と確信した

予想以上に分かっている出来るドライバーだった事に安心したものの、同時にここからいよいよ観光客は歩く事も許さない紛争地帯に入るんだと緊張が走った

そこからさらに北上したところで分かれ道があり左の道の奥では警察が検問をやっていた

ドライバーは迷わず右の道を選びアグダムの町に近づいていく

アグダム

窓の外には瓦礫だけになった廃墟がポツポツ見え始めた
そろそろアグダムと呼ばれる地域に入ったようだ

そうして警察の検問場所を把握してるドライバーが検問を避けながらアグダムの町の中にたどり着いて指さされたのは何もない獣道

ここは通常外国人観光客の入ってはいけないエリアだ

普通の道を歩いて軍人に見つかると拘束される為、道ではない場所をなるべく音を出さずに進んで行かなければならない

なのでここからはステルスプレーに徹する必要がある

目指すのは廃墟のなった町アグダムの中心にあるモスク

僕とKサンは道では無い道を歩き出した

Ağdam

Ağdam

時折、軍用車が横の道路を走り抜けて行くのでその度に屈んで見つからないように進む

普段より気遣いながら、そしてなれない屈みながらの姿勢での移動が多いため息が切れるのが早い

Ağdam

Ağdam

Ağdam

時折上の写真のようにアグダムの町の中の普通の道路をまたいで次の獣道に入らないと行けない場所が2箇所ほどある

ここは軍用車も通るので急いで姿を見られずに渡って次の茂みに身を隠さないとならない

足元には乾燥地帯によくあるようなトゲを持った植物が生えていて迂闊にもサンダルで来てしまった僕とKサンの足にはすでに何度もトゲが刺さっている

Ağdam

足のトゲを抜いてる間にKサンがだいぶ先に行ってしまった

Ağdam

Ağdam

Ağdam

Ağdam

しばらく歩くと廃墟の町の中心部と思われる形の残っているモスクのミナレットが2本見えてきた

僕らは今まさに普通には足を踏み入れる事の出来ない戦火の爪痕残る廃墟の町アグダムの中にいるんだと再認識

Ağdam

緊張感で汗だくになりながらモスクに向かって進むとモスク手前の左手に屋上に拡声器が取り付けてある妙な建物が見えてきた

Ağdam

兵士が高台から監視してると聞いていたのでKサンのカメラの望遠レンズで兵士が建物に居ないか遠くから確認して安全を確保しながら進む

Ağdam

Ağdam

しかしやはり拡声器の取り付けてある建物には肉眼で確認出来るくらいの人数の兵士がおり、そのままモスクに向かうと見つかってしまう為に迂回して廃墟の建物の中を通りながらモスクの入り口に近づく事にする

Ağdam

ここ地点から先にまっすぐ進むと兵士たちが建物からこちらを見ていたら姿を見られてしまうので右に大回りして迂回開始

もうモスクのミナレットはすぐそこなのに

Ağdam

Ağdam

Ağdam

そうして汗だくで息をきらせながらやっと辿り着いたアグダムの中心のモスク

Ağdam

中に入る入り口が見当たらないが窓から中を覗き込めた

Ağdam

Ağdam

ここは崩壊を免れたようだ ただどこから入るんだろうか?

そう思って周辺を見回ろうとした時、足元の植物に何か白っぽい物がいっぱいついてるのが目に入った

Ağdam

何だこれ!?植物に見たことない小さなカタツムリが大量に寄生してる

モスク周辺の草花に全部カタツムリがくっついている 気持ち悪すぎだろ・・・

周辺もこんなだしもう中に入るのを諦めかけた時、別の側面の外壁にモスクのミナレットに登る階段を発見してしまう ついてるのか、ついてないのか

Ağdam

Ağdam

階段を上がるとモスクの2階に出た 中の保存状態は思った以上に良いものだった

Ağdam

Ağdam

ここからはミナレットに登る

真っ暗な狭い階段に粉末のように埃が溜まっていている

マスクがないと完全に肺をやられそうなほどの埃の量だ

頂上付近まで来たころにミナレットの穴から外の景色が見え始めた

Ağdam

Ağdam

そして引き続きホコリだらけの真っ暗な狭い階段を息を切らして登った天辺から見えたのは見渡す限りの廃墟の町アグダム

Ağdam

Ağdam

Ağdam

ただ兵士が監視している建物からお互いに目視出来る距離の為に体はミナレットの上には出さずに顔とカメラだけを出して撮影して戻る事にした

Ağdam

上の写真のミナレットの向こう側(右)に見える白い小さな建物が兵士がいる建物

Kサンと交代でお互い数枚の写真を撮った

Kサンがとらえた建物にいる兵士の姿 この時、一階と二階に複数人確認出来た

これ以上深追いは禁物だ

タクシードライバーに戻ると約束した時間まであと15分を切っている

僕らはタクシーを降りてからここまでたどり着くのに30分近くかかった

もどり道の時間を考えれば早くここを出なければ

ミナレットを降りてモスク一階に着いた時に何やら遠くで明らかな爆発音がした

Kサンと顔を見合わせて「まさかね」って表情をしてる時に2発目の爆発音がした

何に対して撃ってるのかわからないがもう疑いようはなかった

彼らは大砲を撃っている

これ軍事訓練かアゼルバイジャン側へ威嚇射撃しているのかはわからない

大砲の音の感覚がじだいに短くなって連続で鳴り始め、僕らは慌ててモスクを出た

Kサンと疲労困憊しながら大砲鳴り響く中、タクシードライバーとの待ち合わせポイントへ急いで戻る

何度かかなり大きな音で大砲の音が響き、その度に2人でビクっとなってまた歩き出す

汗がしたたり落ちる

息が切れて喉が乾いて苦しい でも今休憩してるヒマはない

というか状況的に出来ない 止まってられないのだ

アグダム

ドライバーとの待ち合わせポイントにたどり着くとドライバーが扉を開けて待っててくれた

ドライバーはあの大砲の音で危険を察したのかもの凄いスピードを出してステパナケルトへと走り出した

僕らは車の中に入って初めて自分たちの足がどんなに傷だらけでトゲが刺さりまくっているのかに気づいた

同時に疲労感と痛みが襲って来た アグダムの中を歩いてる最中も足はボロボロだったろうが必死過ぎて痛みすら感じていなかった

それが車に戻って一気に襲って来たのだ

痛みを堪えながらあとは放心状態で車に乗ってた事だけ覚えている

ステパナケルト

戻って来たステパナケルトの街には信じられない程のどかな街並みがあった

ステパナケルト

ステパナケルト

ステパナケルト

紛争地帯のアグダムから帰って来たばかりでこの風景や子供たちを見てるとさっき自分が見て来た光景は夢だったのではないだろうかと思うほどのギャップがある

ステパナケルト

あの観光客立ち入り禁止エリアに足を踏み入れた事、車から降りて自分達の足であの紛争地帯を歩いた事、兵士に見つからないようにモスクに辿り着いた事、モスクの中とミナレットに登り大砲鳴り響く中帰ってきた事


これらは褒められるような事ではないのは百も承知だが、自分の目で見てあの場所を感じれたのは僕の中では普通の観光地を旅行するより何十倍も大きな経験だ

ステパナケルト

ステパナケルト

ステパナケルト

この街とアグダムは車でものの40分くらい

この距離でこの違いはこっちの頭と気持ちの整理が追いつかない感じだった

ステパナケルト

何にせよこの子らの未来が明るく平和なものであって欲しいと願うばかりだ

ステパナケルト

そして日本に帰って自分がまた平和ボケしてるなと思った時にはミナレットから見たあの見渡す限り廃墟となったあのアグダムの景色を思い出すだろう

Ağdam

にほんブログ村 旅行ブログ 世界一周へ
にほんブログ村

スポンサーリンク
simplicity2のレクタングル広告(大)
Translate »