2022年2月24日
午前1時15分、iPhoneのアラームが鳴った
ドミトリーなので他の人を起こさないようアラームの音の2回目が鳴らないように最初の音が鳴った瞬間にiPhoneに手をかけて音を止める
快晴の日を選ぶため昨日予定変更してまでやって来たエル チャルテンの町
そして到着したその夜にそのままフィッツロイまで行く
その時がついに来た
ロビーにはまだ夜更かししてるメンバーがトランプで遊んでる
僕が「ブエノス ディアス(おはよう)」と挨拶すると「こんばんはでしょ?」っと笑われた
僕は夜中からフィッツロイに行くから昨日は夜21時過ぎに寝た
だから僕の感覚からすれば今は「おはよう」なんだよな
ロビーのキッチンで気付けがわりのコーヒーを入れて、夕方買っておいたエンパナーダを電子レンジで温める
用意はある程度しておいたのでこれを食べてトイレを済ませたら早速出発だ
部屋に用意してた荷物を取りに行ってロビーに出ると、みんなが「え?今から外出るの?」みたいな顔をしてたので「フィッツロイに行ってくるよ」っと伝えた
「今から行くって事は泊まりなしの朝日組だね」っと言われた
ん? 泊まりなしの朝日組?
朝日見に行く場合ってこれが普通じゃないのか・・?
まぁいいや、とにかく朝日に間に合うように早く出かけよう
夜中の2時10分に宿を出発
まずはこの町の北にある登山道の入り口まで行かないと
昼に一度展望台までは行ってるのでだいたいは分かってる
登山道に行くために一度町のメイン通りまで出る
もう夜中の2時だというのにエルチャルテンの町のメイン通りの飲食店はまだ数軒の店が開いていて夜中まで酒を楽しんでいる人たちがいる
この町にこんな時間までやってるお店もあるんだな
15分ほど歩いてエルチャルテンの北側にあるフィッツロイへの登山道の入り口に着いた
周辺はもう真っ暗で明かりひとつない
ここからはもう暗すぎて iPhoneで写真が何も撮れないのでほとんど写真はありません
周りに明かりが何も見えない 他の登山者のヘッドライトなども全く見えない
どういうことだ?
もしかして今この時間からフィッツロイに行くの俺だけなのか
そんなわけないよな・・
きっと他の登山者はすでに先に行ってるのだろう
もしくは僕より後から登るんだろう
ただ今朝、イタリア人の旅行者のフランツと朝食を食べながら話していた時の会話を思い出す
エルカラファテの宿でチェックアウト前に朝食を食べていた時フランツが「おはよう、同じテーブルで朝食を食べていいかい?」と言ってきた
同じテーブルで朝食を食べている時にフランツとフィッツロイに登る時間の話をしていた
僕が「僕は今日エルチャルテンに行って、そのまま夜中に宿を出発してフィッツロイを見に行くよ。君も今日エルチャルテン行くなら同じでしょ?」と言った
するとフランツが「君は珍しい時間に行くんだね」っと言った
一瞬意味が分からなかった
僕は昔いくつかの世界一周旅行者のブログを読んだ
そこでフィッツロイに行くほとんどの人が夜中に宿を出発して、朝日が昇る前にフィッツロイにたどり着き、そこで朝日に照らされるフィッツロイを見るという一連の流れを読んで来た
だから僕はフィッツロイに行く人達はみんな夜中に宿を出て、夜のうちに登山終え朝日とフィッツロイを見るのが普通だと思っていた
でもフランツは朝に宿を出発して昼のフィッツロイを見に行くと言う
さらにフランツは「ヨーロピアンはほとんどそうしてるはずだよ」とも言っていた
そして今、実際に夜中の2時半前に登山道に着いたものの僕以外歩いてる人は誰もいない
本当に暗闇の登山道に僕一人だ
僕はてっきりもっとたくさんの登山者がいて、ヘッドライトがあちこちに見えてる状況を想像していた
だけどどうもフランツが言っていたことが正しかったようだ
この暗さと静けさ
聞こえるのは風の音だけ
間違いない
今この登山道を進んでいるのは完全に僕一人だ
僕は昨日の夜、オーストラリアにいる旅仲間の Mサンという女性と電話でフィッツロイの話をしていた
そこでヘッドライトを買ってでも持って行くべきかどうかを聞いていた
すると Mサンは「ヘッドライトなくても大丈夫と思いますよ」と言っていた
彼女はスマートフォンのライトのみでフィッツロイまで行ったらしい
だけどこれは・・・
もうね、明かりがなかったら目の前に真っ黒の画用紙を広げられてるようなレベルの暗さ
Mサン、これヘッドライトの明かりなかったら無理っす・・
僕を殺す気かな?(笑)
明かりがなかったらマジで道が判別出来ずに踏み外して落ちてしまう
Mサンがフィッツロイまで行ったようにスマートフォンのライトで道を照らすとなんとか歩いて行ける
でもフィッツロイまでは12 kmの道のり
片道4時間はかかると聞いている
4時間の道のりをずっとスマートフォンのライトで照らすなら、バッテリーがそれなりに必要だ
念のためにモバイルバッテリーをフル充電して持ってきといて良かった
これがなかったらフィッツロイに行くのに道を照らし続けていたらフィッツロイに着いてからもう写真も取れないぐらいのバッテリー残量になってるよ
登山道を登り始めると昼間と同じように最初は坂道が続く
本当に真っ暗で誰もいなくて風がビュービュー吹いている
不安になるぐらいの暗さ
これは思っていた以上に心細い
暗さと大自然の脅威で少し怖さまで感じる
時々、ガサガサっと横の草むらで音がしてギョッとして驚く
すぐにiPhoneのライトを向けると野生のウサギがいる
頼むから驚かせないでくれよ
序盤の坂道でウサギは3回ほど見た
気温は寒いけど山道を歩いてるので体はそこそこ暖かい
今のところメキシコで知り合いからもらった極暖のヒートテック1枚で大丈夫な感じ
ここからよっぽど気温が下がらない限り多分この服装のままフィッツロイまで行けるだろう
フィッツロイの麓に着いてから朝日が昇るまで待ってる間はかなり寒いと聞いている
そこに着いたら鞄の中に入れているダウンジャケットとウィンドブレーカーを取り出し着込む予定だ
少し歩いてると遠くにエルチャルテンの町の灯が見えた
まだエルチャルテンの町が見えるレベル
全然進んでない ここからちょっとペース上げていこう
時々、広い道に出たタイミングで岩に座って3分ほど水を飲みながら休憩する
その時はバッテリーが勿体ないからiPhoneのライトを消す
山の中に入ると本当に明かりひとつないから、スマートフォンのライトを消すと自分の上には満天の星空が見える
天の川が自分の真上を横切ってる
すごい星空の下をフィッツロイに向かって歩いてるんだな
地図アプリのmaps.meで登山道を確認しながらどんどん進んでいく
グーグルマップでは登山道があまり詳しく載っていないので、登山道などをしっかり確認して行くときはmaps.meを使った方が効率的だ
看板で登山口から6キロの地点まで来た事がわかる
昨日も書いたけど看板では10 kmとなっているが、実際にはフィッツロイまでは12キロと聞いている
だから6キロ地点ということは今半分ぐらい進んできたわけだ
一応ここまでの道のりなんだけど、登山口の入口から最初の3 km ぐらいは上り坂
でもそれを過ぎるとそこからは平坦な道がずっと続く
だからこの登山の中盤は全てハイキングコースのような平らな道だ
この辺はそういう意味では体力を温存できるのでありがたい
中盤はペースを上げても全然平気だ
途中、湖とキャンプ場があるところを通った
暗くて写真は撮ってないけどそこにはテントが大量に張ってある
さらにテントが無いのか寝袋でそのまま外で寝てる人もいる
どうもこの人達は昨日の明るいうちからここまで登って来て、ここにテントを張って一泊し朝方にフィッツロイに向かうようだ
なるほど、朝日を見に行く欧米人たちはみんなこの山で一泊してたのか
だから僕と同じようにエルチャルテンの町から夜中に出発してる人がいなかったわけだ
そして宿を出発する前にロビーで「君は泊まりなしの朝日組だね」と言われた意味も今分かった
ほとんどの人は山でキャンプする泊まりありの朝日組だったんだ
その後もどんどんと平らな道を歩いて目標のフィッツロイの手前の湖に向かう
夜中の4時過ぎぐらいだった
すごくすごく遠くの高いところに初めてヘッドライトみたいな小さな明かりが2〜3つ見えた
あまりの遠さと高さに「あんな場所を登ってる人もいるのか。あれは多分別のトレッキングコースなんだろうな」そう思いながらその小さな遠くのヘッドライトを見ていた
それからも黙々と歩くこと約1時間
ちょうど朝の5時前ぐらいだったかな
また別のキャンプ場を通過する
ここで初めて間近で人のヘッドライトの明かりを見た
みんなテントから出てきて身支度を整えている
ここにいる人達も昨日うちからここまで登って来て、ここでテントに泊まって今からフィッツロイにアタックをかける登山者だ
近くにいる人におはようと挨拶をしながら進んでいく
少し先に川が流れていて橋を渡ってその川の向こうに行く
するとさっきまで非常に遠くに見えていたかなり高い場所にあるヘッドライトの明かりがいくつも見えた
その瞬間に少し嫌な予感がした
マジかあれ・・・
めちゃくちゃ遠くに、そしてめちゃくちゃ高いところにあるヘッドライトだから別の山だと思っていた
けどあのヘッドライトはフィッツロイに行く人たちのヘッドライトの明かりだったんだ
距離はめちゃくちゃ離れてるわけでは無いのに冗談でしょ?って思うくらい高いところにヘッドライトの明かりが小さく見える
と言う事はここからの傾斜がいかにキツいものかを物語っている
ここから見えるあんな高いところまで今から僕も登るという事か
そういえば昨日の電話でも Mサンが「フィッツロイ登山は最後のパートがめちゃくちゃキツイです。最後のパートだけもう道が道でなくなります。私は帰り道もう膝が笑ってガクガクでした」って言ってたな
ここからの傾斜、ちょっと覚悟して臨まないといけないな
maps.me を見るとフィッツロイの手前の湖まで残り1.5 km ぐらいになっている
でも高いところに見えるヘッドライトを見る限り、「本当にこれ1.5キロか?」って距離に感じる
体感ではもう斜め上の空に向かって1.5 km って感じだ
とにかく進んで僕も早くあの高さまで登っていかないと
この時期のフィッツロイでの朝日の時間は7時前ぐらい
余裕を持って6時半までには着いておきたいな
石段のようになっている坂をどんどんと登っていく
そしてある程度登っていくと道が石段でも普通の平らな道でもなくなってきた
昨日電話で聞いていたとおり道が道でなくなっていく
ゴツゴツした岩が大量にある坂道を上っていくような形になる
さらに砂利道のような小石だらけの場所もあって、傾斜がきついので砂利で滑って下に戻される
なのに足元の傾斜はどんどんときつくなっていく
息が切れまくる 正直きつい
ここだけ今まで歩いてきた道とは段違いだ
もう100メートル進むごとに一回休憩を入れたくなるようなキツさ
標高が上がってきたぶんだけ気温が低くなってるけど、それでも汗をかいてしまう
そして喉も乾いて、ここまであまり飲まなかった水をガブガブ飲む
ここまである程度水をセーブしといて良かった
これ昼間の登山ならここで相当な水を消費するはずだ
もうあれからだいぶ登ってきたかと思ってmaps.meで確認するけど全然進んでない
この最後のパートだけこうもペースが落ちるものか、こうも進まないものか
山やトレッキングに強いはずの欧米人も結構そこらで休憩してる
本当にフィッツロイまでの登山はこの最後の1.5キロだけプチ地獄だ
そして頂上まで残り500メートルくらいになった時
振り返ると後ろの空が少し明るくなり始めてた
もうすぐ夜明けだ
あと少し もう1歩、1歩がキツイけど頑張れ俺
そして目の前の先に進んでる欧米人達が何やら声をあげてるなと思って最後の傾斜を越えると・・
・・・!!!
つ、着いた・・・フィッツロイだ
ついにフィッツロイに到着したぞ
暗いけど山のシルエットがはっきり分かる
もうそのくらい目の前にパタゴニアの象徴の山がある
2年前
パタゴニアまで来て何も出来なかったあの2年前
あれから長かったのか、それとも早く戻って来れたのか
それは分からない
分からないけど僕はあの時の時間をようやく取り戻せた気がした
少しづつ明るくなる空
それにつれ、フィッツロイの姿も少しづつハッキリしてゆく
僕はチリに行くためだけに今回アルゼンチンに入国した
でもチリには行けなくなった
チリに行けなくなったからそのまま南下してパタゴニアに行く事にした
ただその時の状況と成り行きにまかせただけ
でも今はその成り行きと運命に感謝してる
チリに行けなくなったのは残念だけど、そのおかげで今こんなにも神々しい山を快晴の下、見ることが出来てるのだから
明るくなってきたおかげでようやく手前の湖もしっかり確認出来るようになってきた
因みにフィッツロイを正面に見てると朝日は背中側から昇ってくる感じ
岩場には GoProを設置して、暗い状態から朝日に照らされていくフィッツロイのタイムラプス動画を撮っていた
またそのタイムラプス動画はそのうちYouTubeにでもアップしたいと思う
神様からのご褒美かフィッツロイ側には雲ひとつない状態
最高のコンディションでフィッツロイを見ることが出来たよ
南米に戻って来てからは天気をしっかり味方につけるように動いていたので、マチュピチュもウユニ塩湖も、このフィッツロイも最高の空の下で見る事が出来ている
そして背後の空からは
本当に空が燃えてるかのようなヤバイくらいの朝焼け
凄い空と凄い山のコンボ
もうここ神秘的過ぎ
ある程度明るくなってきて朝日と山を見終わったら、この辺りから数組の欧米人たちが山を降り始める
欧米人たちは登ってくるのも早くて帰るのも割と早い
白々と青くなり始める空
フィッツロイはその全貌をさらけ出し、山に刻まれている幾つもの亀裂までがもうはっきりと肉眼で見える
パタゴニアを離れた日
またいつか来て必ずリベンジすると誓った2年前の思い
まさかこの世界一周中にもう一度来る事になるとは思ってなかった
でも俺は2年前の誓い通り、今間違いなくフィッツロイの目の前にいる
あのコロナパンデミックのせいで絶望の思いでパタゴニアを離れることになったあの日の自分に教えてやりたいな
「俺はこの世界一周中に戻ってきたぞ」っと
僕の中で世界一かっこいい山
朝日に照らされたフィッツロイを30分ほどしっかり目と記憶に刻み込んだ
すでに半分以上の登山者が下山を始めてる
名残惜しいけどそろそろ僕も下山しよう
登り道でも滑っていた砂利道だから帰りは本当に気をつけよう
下り坂で来る時ほどの疲れはもちろんないけど、足が疲れていて踏ん張りが利かない分、滑って転んだりしやすくなってるはずだ
またいつか見に来れたらいいな
今はまだまだ旅しにくい状況だけど、この状況が終わって多くの人がこの素晴らしい山を気軽に見に来れる日がくるのを願ってるよ
さぁ下山開始だ
2度ほど滑り転びそうになりながら最後の傾斜が始まる入り口まで戻ってきた
登ってる時は暗くて見えなかったけど、この登山で一番きついラストパートの入り口はこんな感じの場所
そしてここが傾斜が始まる所から一番近いキャンプ場
この頃にはみんな帰る準備を始めていた
僕と同じように朝日を見て、今からエルチャルテンの町に帰る人たちが準備を整えている
少し広い場所に出たところから振り返ると、後ろにさっきまでいたフィッツロイが白い姿で聳えていた
ありがとうなフィッツロイ
最高の景色を見せてもらったよ
こんなコロナ渦の中、こうして旅を続けてこんな景色を見れてる俺は幸せ者だよな
黙々と歩いて昨日の昼間に見に来た展望台の近くまで戻ってきた
ここまで来ればエルチャルテンの町はもうすぐだ
ここで朝宿を出て昼間のフィッツロイを登りに来たフランツとすれ違った
「やあ、また会ったね。君が朝からフィッツロイに行くと言っていたから絶対にこの登山道ですれ違うと思ってたよ」と言うとフランツが「僕も同じこと考えてたよ」と言った
最後の1時間は結構しんどいからそこに行くまで水をセーブしといた方がいいよと忠告しておいた
天気予報によると今日の夕方から天気が少し崩れる
天気が崩れる前にフランツが綺麗な雲のないフィッツロイを見れたらいいな
ついにエル チャルテンの町が見えて来た
あとちょっとだ
そしてついに登山道の入り口に
やっと戻ってこれたー
時間を見ると帰りは約3時間で降りて来たみたいだ
別に帰り道は飛ばした覚えはないけど、やっぱり行きと帰りではあの最後の傾斜の部分で相当な時間差が出てたということだな
ここまでは黙々と歩いてきたけどエル チャルテンの町に着いて安心したからか、今になってどっと疲れてきた
昨日もあんまり長い時間寝れてないから寝不足もあって体がすごく疲れてる
でもフィッツロイに行ったんだという達成感もあってこの疲れがどこか心地よい
兎にも角にもようやくひとつパタゴニアでやり残したことを回収した
でも実は今日まだこれで終わりではない
エル チャルテンの町はハイシーズンで混んでいたから、実は一泊分しか宿が取れていなかった
つまり今日僕は宿無し
そう 今晩はパタゴニアで野宿だ