2018年6月19日
体調がだいぶ回復したミコト君と一緒に僕はガンジス川沿いを歩いていた
少しガンジス川沿いを散歩して昼ご飯を食べに行こうということになったのだ
この辺りはバラナシの写真でよく見るガンジス川へ沐浴しに降りる階段ガードがたくさんある場所だ
ガンジス川やバラナシという検索キーワードで写真検索をするとよくここの風景が出てきていた 今それをまさに自分の目で生で見てるわけだ
今更だがついにずっと写真で見て想像を膨らませていたあのインドのバラナシに来たんだな
壁には大きな文字で「久美子の家」と書かれている
このガードの上は古い方の久美子ハウスだ
僕も明日宿を変えて泊まりに行こう
ミコト君とそのままガンジス川沿いを歩いていると一人のアジア人の青年がずぶ濡れでしゃがんでいるのが見えた
その青年はあきらかにガンジス川で沐浴した後だった
「あれ?あれって日本人じゃないかな」と僕が言うとミコト君も「絶対あれ日本人ですよ」と言うので2人で声をかけてみることにした
後ろからこんにちはーと声をかけるとその青年はこちらを振り向いて「あ、こんにちは」と返してきた
彼の名前はワタル君 長期旅行者でインドの後もドイツに行ったりいろんなところを回って9月か10月ぐらいに日本に帰る予定らしい
写真左がワタル君、右がミコト君
ワタル君とはまた夕方に合流して一緒に火葬場に行くことになった
ミコト君とそのままガンジス川のガートを上って、インド人オーナーが日本料理や中華料理を出しているレストランに入って昼食
ミコト君はベジタブルラーメン 僕は親子丼
インドの6月のとんでもない暑さに外に出てるだけでもバテてしまって夕方まで一度宿に戻って休むことにした
この時期はインド人でも昼間あまり外に出ないそうだ
夜になるとガンジス川のほとりに人がようやく出てくるようになるらしい
宿に戻る途中水牛たちもあまりの暑さに水浴び中
ちゃんと飼われてる水牛のようで 飼い主が水牛たちの体を洗ってやってた
夕方になりワタル君たちと合流する予定のガートに向かった
するとワタル君が同じ宿の人を2人連れてきていた
その二人の男性は幼馴染で今一緒にインドを旅しているそうだ
名前はのぞむ君とヒロ君
インドの後も数ケ国一緒に旅するようだ
途中昨日と同じようにブルーラッシーで皆でラッシーを飲んでから昨日僕が行った火葬場、マニカルニカーガートに向かう
写真撮影禁止なのでここからは例によって写真はない
火葬場は今日も多くの死体が焼かれていた
人の肉が焼かれる独特の匂い
今日は死体の数が多いようで次から次へと運ばれてくる
死体が焼かれる場所が全て先に到着した死体で埋まっているので、後から来た死体は横におろされて順番待ちになっている
ここに運ばれてきた死体は一旦ガンジス川に連れて行かれそこでガンジス川の水で清められる
死体に水をかけたり、死体の口元にガンジス川の水を飲ませるかのように水をかける
これは死んだ人にとって最後のガンジス川の水とのふれあいだ
そして川の水でのお清めが終わると家族と最後の別れの写真を撮る
もちろんこの火葬場は撮影禁止だが家族だけは最後のお別れの写真を撮影することが許されている
写真を撮ってる人がいるからと思って、他の人が写真を撮ると周りの人達からすごい剣幕で止められてしまうはずなので気をつけなければならない あくまでも撮影をしているのは親族の人たちのみなのだ
家族との最後の別れが終わると死体は薪が組まれた焼き場に運ばれる
そこに正装に身を包んだ火付け係の者がやってきて死体の周りを回りながら祈りを捧げ死体の下の薪に火がつけられる
一旦燃え始めると思った以上に火の勢いは強く、あっという間に炎が死体の身体全体を包む
そして燃やされた灰はガンジス川に流されるのだ
こうやって1日に何体もの死体が24時間休むことなく燃やされ続ける
子供と妊婦の死体は燃やさずにガンジス川にそのまま流される
これは人生を全うできなかった分、もう一度生まれ変わって来れるようにするためだそうだ
火葬場のすぐ下流では地元の青年や子どもたちが同じ川で水浴びをしている
ここバラナシはあまりにも生活と死が近すぎる場所
ここまで生と死が隣り合わせにある国は初めてだ
僕たちは滝のような汗を流しながら何十体もの死体が焼かれる火葬場を見続けていた
この日ミコト君は夜行バスでネパールに向かう
その時間もあるので僕たちは火葬場を後にし、宿の近くのレストランで夕食を食べてプージャという礼拝をその後見に行くことにした
バラナシのレストランにて
左からワタル君、のぞむ君、ヒロ君、ミコト君
夕食後、ガンジス川の礼拝のメインとなるダシャーシュワメード・ガートに出てみるとものすごい人だかりだった
プージャという礼拝の儀式はすでに始まっているようだ
なんだろうこの異様かつ神秘的な雰囲気の儀式は
この儀式行えるのはカースト上位のバラモンという位の男性だけだ
昨日と同じく夜になってもここも熱帯夜で気温が下がらない
儀式でも炎を使うためここもまるでサウナだ
ガンジス川には川の方からこのプージャの儀式を見る人の船でいっぱいだ
川には花をつけた小さな灯篭のようなものも流されている
なんだかインドに来て初めて神秘的なものを見たような気がする
うまく言葉にはならない何かを今見ている
時間を確認するとそろそろミコト君が出発する時間が近づいていた
僕らはここで皆さんとお別れして解散となった
このあとミコト君を大通りでオートリキシャーを拾える所まで見送らないと
宿に帰ってネットを繋ぐと驚くべき文字がニュースのトップに来ていた
日本代表2−1でコロンビアを撃破
そう、僕らが火葬場で死体が焼かれるのを見ていたあの時間、日本代表はロシアの地で戦い南米相手にアジア勢が勝利するという初快挙を成し遂げていた
「ミコト君!日本勝ってるよ!コロンビア相手に2−1だって!」
「マジっすか!?ヤバイじゃないですか!あー信じられない!」
日本も今夜はきっと歓喜に湧いてるんだろな
僕らはあの時間紛れもなく人が焼かれてるところを見ていた
ロシアでワールドカップを見ているサポーターのように日本代表のユニフォームに身を包んで爽やかな汗を流したわけではない
代表の歓喜の瞬間をライブで見れなかったのは残念だが僕らはいつか自分達も間違いなくそうなるであろう人が死んだ後の光景を目の当たりにしていた
それはこの世界一周の中でワールドカップの試合を見逃してでも見る価値のあったものだと思っている
僕らの汗ビッショリのTシャツには死体を燃やした灰と煙が染み付いている
僕らは大事なワールドカップの試合を見逃してまであの場所にいた以上、今日見た光景を簡単に忘れてはいけないんだ
ミコト君はこの後、ネパールに行きそこからチベットに抜けて中国を北上しカザフスタンに向かう 彼の世界一周の旅は一年の予定だ
僕とは期間もルートも大幅に違うのでここで別れたらもうこの世界一周の旅行中に会うのは難しいだろう
彼と会うのはこの旅中はこれが最後かもしれない
大通りに出てリキシャーを拾いバスの発着所までの料金の交渉を済ませた
ミコト君が荷物をリキシャーに乗せて右手を差し出してきた
「気をつけてお互いこれからも良い旅を」
お互いに声をかけ彼の右手をしっかりと握った
ミコト君、短い期間だったけど出会えてよかったよ
若いけど野心と好奇心に溢れた立派な青年だったと思う
若い彼の将来は可能性に満ち溢れてると思う
体にだけ気をつけてこれからもお互いいい旅しような
ミコト君を乗せたリキシャーが走り出し見えなくなるまで見送った
そのまま僕は一人歩きもう一度ガンジス川沿いに出てみた
灼熱の夜にガンジス川沿いの建物が儀式の照明に照らされていた
プージャの儀式はまだ終わらない
明日からまた一人でインドを旅することになるんだ